浪江町の鮭鍋
浪江町2日目。「なみえの郷土料理教室」に参加してきた。「冬はおいしい鮭鍋をみんなでつくって食べよう」というテーマのイベント。昨夜、まち・なみ・まるしぇでポスターを見つけ、勢いで申し込んだ。旅の私の楽しみはなんといっても食なのだ。宿の管理人さんが車を出してくれて、加倉集会所まで送ってもらった。加倉集会所に行く手前の十字路には加倉スクリーニング場がある。帰宅困難区域のため、一時的に立ち寄る住民の放射線量チェックを行う場所だ。加倉集会場に着いた。店員30人のところ、おそらくほぼ埋まっているような状態。昨日の雪で参加者の減少が心配されていたが、なんと参加率は100%。
鮭鍋作り開始。浪江町には、請戸川と高瀬川という2本の川が流れていて、その合流点に近いところにヤナ場がある。そこでは9月下旬から11月下旬まで鮭狩りが行われてきた。幅120mにも及ぶ川幅いっぱいの網を流して鮭を獲るんだという。「近くに食堂があって、そこですぐ料理して食べてたんだよねえ」と、おばあちゃんたちが懐かしそうに言っていた。震災以来、鮭狩りは行われていない。震災による津波でふ化場が全壊するなどして、整備が追い付いていないらしい。近くの食堂「泉田川観光食堂」も、Googlemapで「閉業」になっていた。だから今回使う鮭は、浪江の鮭ではない。
私のグループは、私、30代ほどの方2人、高齢の方3人だった。里芋の切り方や白菜の切り方など、主におばあちゃんたちから指摘を受けながら切る。白菜をどばどば入れていったら、見た目も指摘された。すいません、先輩…という感じでなんとか大量の具材を鍋に入れ終えた。
浪江町の鮭鍋鮭鍋が煮えるのを待っている間、スペイン料理店のシェフが鮭を使ったスペイン料理を作ってくれた。「マルミタコ」というバスク地方の料理。現地ではレストランで食べる他、漁師が船で調理して食べる漁師飯として昔から親しまれているという。
鮭を焼いた油もうまみとして使う。
具材を大きめに切るのがポイント。まな板を使わずに片手で持って切り取っていくのがスペインスタイルなんだとか。マルミタコを作ってくれた瀧本さんは東京タワーの近く、カサ・デ・マチャというお店のオーナーシェフ。浪江町には数年前から関わりをもつ。フラメンコのイベントでパエリアを振る舞ったイベント以来、時々こうして料理イベントに訪れるんだという。今回の参加者も瀧本さんにはなじみがあるのか、若い男性が来て嬉しいのか、ツーショットを依頼していた。(ちなみに私もこの中では最も若い女性のはずなのだが写真オファーは来ず…)
お待ちかね、試食タイム。まずは浪江町の鮭鍋。野菜甘っ!野菜の甘みが醤油風味の出汁とマッチしてておいしい。そして鮭、鍋にあう。鍋のときタンパク質はたいてい肉におまかせするけど、お魚にまかせるのもいいなぁ。
こちらも初めて。マルミタコ。鮭鍋よりも全体的に具材がくずれて混ざり合っている感じ。甘い野菜にトマトスープ。鮭鍋よりも全体的にデザートのような甘みがある。そこに粒胡椒がアクセントを効かせていて、こちらもとても美味しかった。おばあちゃんたちは怪しみながら口にしていたけど、「食べたことない味だけどおいしいね」と気に入っている様子。
「みんなで食べるとおいしいね」。同じテーブルで食べていたおばあちゃんが嬉しそうに言う。「この町はずいぶん人減っちゃったんだけどね」。続けてぽつりと言った。この町の人々にとって、「みんなで食べる」ということはすごく貴重なことものなのかもしれない。浪江町の一部が避難解除されてから、2年足らず。初めて来た私には日常の一コマのようにみえるこの料理教室。こういう日常を過ごせるようになるまでに、いろんなことがあったんだと思う。それは私には分からないことだ。分からない私に、おばちゃんおじちゃんが色々話してくれた。鮭のヤナ場だけでない。「魚市場も解体工事もいつになったら終わるのかねぇ…まあ、東京五輪であっちに建設の人材はとられちゃうからねぇ…」。かつて鮭が泳いでいた川を見ながら、もやもやとした気持ちになった。
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