朝ごはんは優しさの味ー浪江町のとあるご夫婦との食卓
「朝ご飯一緒に食べよう」。宿の管理人の夫婦が声をかけてくれた。白いつやつやご飯に、出汁のきいたモズク入り味噌汁。納豆に味付け海苔、卵焼き、魚の煮つけ…。幸せな一日の始まりを告げるような、あたたかな食卓。昨夜、夜の浪江町に到着し行く宛てのない私を拾ってくれた宿の夫婦。この宿には、浪江町の復興事業に携わる建設関係の方々が滞在しているという。旦那さんはいわき市出身。様々な業界を渡り歩いてきた彼は、人をもてなすことがとても好きなんだという。それで、昨年の秋にこの旅館を経営し始めた。
奥さんは、ずっと病院で働いてきたが、仕事を辞めて旅館を一緒に経営するようになった。朝食を食べながら、浪江町について色々と話をしてくれた。「この辺りは避難解除はされても、まだ生活インフラが残ってない」。一方、少し南にある富岡町ではホテルが過剰というほどに建てられ、商業施設も充実しているらしい。「あそこは東電の敷地みたいになってっから」。
馴染みのなかった土地に来て、地元のお店や同業者とのつながりを大事にしている。「ビジネスで割り切れない部分があるんだよね、地方にはさ。そんなの古いとか、合理的じゃないとか思われるんだろうけど、やっぱり小さな地域で情でつながってるところがあるんだよね」。地域の情とかつながりとか、今まであまり響かない言葉だった。でも、そういう情というのは、「地域の人」に限った話ではないのかもしれない。浪江町に縁もゆかりもない私を、この夫婦が拾ってくれ、朝ごはんを一緒に食べ、車で料理教室の集会所まで送ってくれる。この夫婦の情がなかったら、昨日私は凍り付くような寒さの雪道でお腹を空かせながら一夜を過ごすことになったかもしれないのだ。情があることのありがたみを噛みしめた。
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